剣聖-男谷精一郎信友-開運への鍵となった生き方

江戸幕末の剣豪

時は幕末、江戸の町には、天下にその名をとどろかせた数多くの剣豪たちが、己の強さを信じ、魂をひたすらに、研ぎ澄ましていました。

その鍛錬たんれんの日々は、剣の道に、捧げられた生涯を彩るもので、剣豪たちの生きる世界は、時代の変化に満ち溢あふれていました。

幕末は、激動の時代で、長い間、続いた天下泰平てんかたいへいが崩れ、新たな時代が、目前に迫っていることを感じながらも、武士の誇りを高く、胸に秘め、文字通り血のにじむような修行で、己おのれの刃を磨みがき上げました。

しかし、戦乱の中で、剣の価値や存在意義に、疑問を抱く剣豪たちも現れました。

それは、単なる剣での戦闘の連続ではなく、己の心の鍛錬たんれんの連続でした。

心と体の一致を求め、一刀いっとうのもとに、澄み渡る境地を目指す姿は、周囲に深い感銘を与え、その技と心の美しさは、多くの人々を魅了しました。

そして、その物語は、時を超えて、今なお私たちの心に、響き続けています。

時の流れは、容赦なく過ぎ去り、剣の武器としての価値は、大きく、下落することとなりましたが、江戸幕末の剣豪たちの情熱と精神は、永遠の輝きを放っています。

幕末の剣豪たちの剣は、単なる武器ではなく、生き様と誇りの象徴しょうちょうとなりました。

その歩んだ道は、厳しさに満ちていたかもしれませんが、それこそが、彼らを本物の剣豪として輝かせたのです。

本記事では、幕末の多くの剣豪の中でも【剣聖】といわれた剣術の達人・男谷精一郎信友の生涯に迫せまり、その精神の探求と、剣の魅力に迫っていきます。

読者の皆様にも、男谷精一郎信友の情熱と、覚悟を、共有していただけることを願っています。

剣聖：男谷精一郎信友（1798年(寛政10年)～1864年(元治元年)）

男谷 精一郎 信友（おだに せいいちろう のぶとも）は1798年（寛政10年）、江戸:本所に生まれました。

幼少の頃から直心陰流の剣術を学び、たゆまぬ努力と修練によって1823年（文政6年）に、免許皆伝を受け、独立し、麻布狸穴まみあなで、自らの道場を開きました。

精一郎は、その圧倒的な強さと品行方正さ、また、剣術のみならず、兵法全般の達人で、書画もよくたしなんだことから、幕末において【剣聖けんせい】と呼ばれる人格者でした。

酒を好む一面もありましたが、深酒をしても、翌日には、決して寝過ごすことなく、毎朝早く起きて、屋敷を掃除することを、日課としていました。

精一郎の性格は、温厚で、弟子や使用人に対して、厳しく叱るようなことはなく、多くの人々が、精一郎の人柄に惹かれ、門弟は集まり、女中や下男たちも長く仕えることとなりました。

当時の多くの剣術の流派は、他流試合を厳禁とし、自らの名声を守ることを重視していましたが、精一郎は、違いました。

「剣術では、よく、何流、何派と分かれているのは、了見が狭い。
井の中の蛙だ」
と公言し、積極的に、他流試合を行いました。

その勇気ある姿勢は、江戸中に知れ渡り、他流試合に立ち会わなかった者は、いない、とまで言われました。

しかし、精一郎は、他流試合に勝利しても、それを大げさに誇ることは、ありませんでした。

また精一郎は、試合相手にも、3本のうち1本は取らせ、相手に花を持たせることがありました。

これが逆に、精一郎の底知れぬ実力と、強さを相手に印象づける結果となったのです。

1855年（安政2年）、精一郎は、徳川幕府の武芸訓練機関である【講武所】の設立を提案し、その剣術師範・頭取及び教授方の筆頭に就任しました。

その報酬として、3千石をもらうこととなりましたが、それでも、精一郎の生活は、相変わらず質素のままで、一切偉ぶることなく、自らは、「300俵あれば十分だ」と笑って、弟子の指導に励んでいました。

精一郎の門下生には、榊原鍵吉（さかきばら けんきち）をはじめとして、幕府の公的な武芸の教授や、各地の大名の武芸師範役になった者が、20人以上もいました。

精一郎は、妻を亡くしてからも再婚することなく、自ら
「楠公【楠木正成】は、正室以外、女性と付き合わなかった」
と語り、
「我も、これに習うものだ」として家事を下男の”清助”（せいすけ）に、任せていました。

また、精一郎は、明治維新の英雄である明治政府の元勲げんくん・勝海舟（かつ かいしゅう）とは、いとこ同士であり、勝海舟が、世に出る際には、精一郎の指導が、大きかったと伝えられています。

1864年（元治元年）7月16日、精一郎は、多くの弟子に見守られながら、67歳で亡くなりました。

精一郎の生涯は、その剣術の達人としての素晴らしい軌跡だけでなく、質素で、節度ある人柄と精神も、後世に多くの感銘を与えています。

【あとがき】

男谷精一郎信友、その名は、剣聖として讃えられるほどの腕前を持ちながら、絶えず謙虚さを忘れず、品行方正な生き方を示しました。

彼の生き様には、開運への鍵が隠されていたように思います。

剣の道に身を捧げ、弟子たちとともに、鍛錬に励む、精一郎の姿勢は、決して誇り高ぶることなく、一つの流派にこだわらず他流試合を行う勇気にあふれていました。

その積極的な挑戦と、底知れぬ実力は、多くの人々の心に深く刻まれました。

一方で、精一郎は、質素で地に足のついた生活を送り、自らを偉ぶることなく、毎朝早く起きて掃除するなど、日常の小さなことにも、真摯に向き合っていましたが、そのことは、開運の秘訣であるかもしれません。

また、精一郎の人柄は、非常に温厚であり、弟子や使用人に対しても優しく接しました。

その結果、多くの門弟もんていが、精一郎を慕い、長く仕えることとなりました。

人を大切にし、周囲の人々と共に歩む姿勢こそが、開運への道なのかもしれません。